きらいになれないときは

日記とフィクション

誰にもあげない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

靴下が何度も足首のあたりまで落ちてしまっていた。何度直しても落ちてくる。

 

春の陽の眩しさは特殊で、普通が全て取り払われてわたしを特別にしていたけれど

その魔法が剥がされてしまう気がして、ずっと気がかりだった。

 

 

 

電車に乗る。いつもの電車だ。

大きな駅を通らない通学電車。

ボックス席に座るために立つ位置。

見飽きた広告と、見飽きない景色。

 

変わっているのに変わらないものと、変わらないのに変わって見えてしまうもの。

 

 

 

制服のシャツは暑かった。

湿気をすべて閉じ込めて、汗も閉じ込めていた。でも、この服はわたしを強くしていた。

くしゃくしゃになっても、これは素肌から遠ざけるフィルタだった。

 

 

 

この気持ちは、誰にも見せない。

自分が見えている世界を誰にも分けない。

イヤホンから流れる音楽は世界中でわたししか聴けない音楽で、この世界はわたしだけのもの。

 

本当は誰かにあげたかったけど、差し出してみたら形は変わってしまった。

本当はもっと尊くて、本当はもっと綺麗で

素敵なもので、意味のあるもので

 

 

そんな悔しさが、苦しさが、悲しさが、夜中に全部押し寄せる。

自分だけの特別も、平べったく直される 訂正されて 評論されて 分類される。

 

愛とは、恋とは なんて

 

本当の本当は、きっとこの胸の苦しさ

きっと誰にも、誰にもわかって欲しくない

 

 

だから、この気持ちはどこにもいかない

ベッドの上で流さない涙

メイク落としがうまく流さなくて赤く充血した瞳 

言いたいことを全部文字にして、全部消してしまう26:00

 

 

誰にもあげない

わたしの地獄