きらいになれないときは

日記とフィクション

あたしの変な恋心

映画館を出たあと、すごい勢いで飛び出る。 なぜだか焦って周りは見えてないのに感覚が鋭い感じがする。特に耳はよく聴こえる、いろんな音を拾っている。

風の音が強い、し、肌がつんのめって裂けちゃう気がする、あ、怖いな。って思ったらもう駅だ。 駅が思っていたより汚いからげんなりする。 LINEがきてる。いろんな人から、でもあと少しで家だから見ない。見ちゃうとなんか今の気持ちが消えちゃう。 この勢いをまだ消したくない。まだ頭の中にあるうちに、初めに感じた衝動が削り取られて失くなってしまうから。

あ、肌のきめ細やかさ。あ、眉毛の1本1本。 輪郭の整いすぎてる曲線。 そういう視覚から来た謎の衝動。 ストーリーには理解の及ばない細かい意図が含まれすぎていてよくわからないのと、ムカムカするのと、あーウザ!って思う気持ちと、 理解できない人の心を覗き見て でも理想の混じる自分にはなれない世界を垣間見て 明日からの自分の生活に夢を見る。 温かいお湯の中に入りたい。溶かしたい。 綺麗な空気の朝になりたい。 眩しいひかり、朝の空気、つまらないラジオ。思い出した、自分の捨てた生活。 求めてる衝動、退屈な感性。貶して、磨いて、わたしの選ぶものがなくなった失った空白で、何が空白なのかもよくわからない。 わからないけど、ひとりにすごく満足な気分。本当は誰かと分け合いたいのにきっとわたしは誰とも話せない。 ちょうどおんなじ目盛りを持ってない人を選んでいる。磨かれない靴で、光らないアクリルキーホルダー、きらいなチョコのブランド。

選ばなかったんじゃない、選択肢を知らなかったんだって逃げたいけど、今からでもがんばれる?がんばれない 失った時を取り戻せないかな?無理かな このむず痒い、というのも腹立たしい恋を ぐちゃぐちゃにしたい。怒りだな

やわらかい、壊れそう 壊したくない 光って。 羨望、嫉妬 あなたが眩しくて わたしがなれない永遠の存在 憎しみの恋 きらいだ、きらいだ

腹が立つ、腹が立つ、面白くなんかないのに音楽が流れる 一番嫌いなそれっぽさにわからなさが乗るから無駄にいろんな余白になだれ込む。苛つき。 今は丁寧さを少し失った朝に、ホットミルクが飲みたい。6つ入ったクロワッサンが黒焦げで白い皿が間抜けに見えたい。 わかるかな、わかってこの苛つき、ってずっと自分の中で怒ってる。 寂しい、悔しい、幼稚な爆発。 本当は全部を選びたかった。 批判して、蔑んで、自分が1番なりたかったもの。 多分自分が最初に感じたあの頃の文学になれなかったわたしがずっと遺すもの。歳をとっても永遠にコンプレックス、何者にもなれないわたしに衝撃と少しの才能を与えたんだ。 光らないわたしがまだ光りたいと思ってしまってまだまだ腹立たしい。悔しい、悔しい、悔しい。 疲れて寝ちゃって忘れたい、いびき。 江國香織サガン わたしの恋心。 形を作らなきゃ、わたしがずっとわたしでいるために